ベクトルネットワークアナライザ(VNA)という、
数学感満載の名前の機械なのですが、実は、アマゾンで一万円以下で販売されています。 ※以下VNAと書きます、
私は、この測定器を、無線機とアンテナとの整合性をチェックするのに利用しています。 無線機からアンテナを介して電波を送信するとき、互いにインピーダンスという交流の抵抗みたいなものが一致していないといけません。 このインピーダンスは抵抗の一種ですので、50Ωに合わせることになってます。
ところが、インピーダンスは一般に実数ではなく複素数(つまり虚数も含まれる数)なのです。 先の50Ωというのは実数のみで、虚数部分は0に抑えるのが理想と言われます。 もし、虚数部分が大きくあったり、実数部分の50Ωがズレていたりすると、非常に厄介なことが起こります。
送信機から出された電波のエネルギーは、アンテナに伝えられ、アンテナから空間へ放出されなければなりません。 しかし、インピーダンスが合っていないと、電波はアンテナに反射され、送信機に戻ってきます。
私など、日本のアマチュア無線が使う送信機は、周波数にもよりますが、数ミリW~1kWまであります。 国家資格による免許によって出力が規制されていますが、第4級アマチュア無線という、小学生でも資格取得が可能なものでも、「空中線電力10W以下の無線設備で21MHz~30MHzまたは8MHz以下の周波数の電波を使用するもの、空中線電力20W以下の無線設備で30MHzを超える周波数の電波を使用するもの」です。
大雑把ですが、これが、3アマだと50W、ちょっと勉強している2アマだと200W、1アマだと上限なし(実際は、無線設備の厳正な実地検査があっても1kW以下)になります。 ※私は、1アマですが、扱いやすい10Wの無線機で運用しています。
インピーダンスがあっていないと、最悪、無線機が壊れる
10Wといえども空中線の電力で、消費電力は30Wくらいで、結構なエネルギーです。 不用意に送信中にアンテナに触ると火傷します。
つまり、インピーダンスが合っていないと、送信出力の一部が戻ってきてしまい、最悪の場合、送信機の終段のトランジスタが焼損します。 アマチュア無線家では、このことを「ファイナルが飛んだ」と言いますが、アンテナが外れたり、接触不良を知らずに送信を続けたときに生じます。 無線機の修理は大変な出費です。 当然、100W, 200W ともなれば、とんでもなく、被害が大きいです。
また、完全にあっていなくとも、ズレが大きいと、そのエネルギーは意図しない周りにまき散らしていますので、電波障害(ほとんど電源が共通の自分の家のみ)や、最近では、無線機につないでいるPCへダメージを与えます。 この状態で使っていると直ぐに無線機壊れますけどねwww
インピーダンスは複素数で周波数によって変化する
前置きが、ずいぶん長くなりましたが、このインピーダンスを50Ωするために、その測定というのが重要なのです。 しかも、インピーダンスは、複素数で、周波数によって変化します。
自分が出そうとしている電波の周波数範囲において、50Ω近辺に調整する必要があります。
VNAは、微弱な電波を変化させながら発信して、アンテナのインピーダンスを計測し、それをスミスチャートと言う複素平面上にプロットしてくれます。
下の動画は、50MHz用のアンテナに、52MHzから55MHzまで変化させたときの、インピーダンスの変化をブロットしたものです。
アンテナの接続部分を緩めたりすると接触状況が変わりますので、インピーダンスが大きく変わるのが分かります。
https://www.slock.co.jp/wp/wp-content/uploads/2022/08/NanoNVA2.mp4
動画が見られない場合を考えて、画像も貼っておきます。
スミスチャートで複素インピーダンスの変化を動的に捉える
この複素平面は、通常数学で使うガウス平面ではなく、縦軸(虚数軸)を円にしたスミスチャートと呼ばれるものです。 こうすることによって無限大や0点まで表示することができるのです。
コイル(誘導素子)のインピーダンスは、\( jωL\) [Ω]
コンデンサ(容量素子)のインピーダンスは、\(−j\cfrac{1}{ωC}\) [Ω]
※電気工学では、電流iiとまぎわらしいので複素数に\(j\)を使います。
インピーダンス合計は
\(Z=R+jX=R+jωL−j\cfrac{1}{ωC}\) [Ω]
この複素数ZZをチャートにプロットしています。 \(L\)はコイルの巻き数などで変り、\(C\)はコンデンサの容量で変わります。 \(ω\)は、角速度で、\(ω=2πfω=2πf\) です。 ここでffは周波数です。
図のように、測定値▼印が横の水平軸より下だと、アンテナの容量分が大きいので、容量を減らすか、誘導性を増加させるかします。
右図(スミスチャート)で具体的に説明すると
(1) 直列に抵抗を接続した場合
リアクタンス成分は変化せず、等リアクタンス円上を抵抗が大きくなる(緑の矢印の)方向へ動きます。
(2) 直列にコンデンサを接続した場合
抵抗成分は変化しないので、等抵抗円上を反時計回り(赤の矢印)の方向へ動きます。
(3) 直列にコイルを接続した場合
抵抗成分は変化しないので、等抵抗円上を時計回り(青の矢印)の方向へ動きます。
★動画では、周波数によって位置が変化しますので、測定器に指定した周波数範囲をスキャンさせることで動的に軌跡を描き表示させています。